非常時の装備を3段階に分ける 後編

前二回(前編中編)では人力で運べるだけの装備について話したが、それらの装備にはやはり人間の限界がある。体力的に優れている人、訓練を受けた人間であってもせいぜいが自分と同じ体重までしか持ち歩けないし、長距離移動しようとするともっと量は減らさざるを得ない。しかし、それ以上の装備でもって長期間の事態にも備えたいときはどうしたらよいだろうか。

大規模な装備、重い装備

長期の備えとなったときに、思い浮かぶのは備蓄倉庫の類である。家庭内でも食料庫なりに保存の利きやすい食料を多くためておくなどして長期の流通の断絶に備えるわけであるが、こういった備蓄は家などの拠点が破壊されたとき、また津波や火事などが迫ってきたときには放棄せざるを得ない。

そういったときに、物資を持って逃げられるような対策をとっておけば安心である。しかし人力では無理であるから、動力、つまり自動車で運ぶという方法になる。自家用車がなければ難しいが恐らく土地の問題などで自動車の保有が難しいような土地であると(建物の密集や人口密度の高さで)自動車での移動は難しいと思われるので非常時の自動車利用は初めから考えなくてもよいだろう。

自動車に積んで持っていくものとしては、長期の食料、また浄水器と飲料水、発電機、寝具、調理器具、カッセットコンロとカセットボンベ、衣類一式、工具等かさばったり重量があったりするものも自動車であれば苦もなく運搬できるから、人力で車載できるように小型のプラスチックコンテナなどに入れておいておく、また一部は常に車に積んでおくなどしておくと非常時にあわてないですむ。

自動車特有の備蓄品・装備品もあるとよいだろう。普段は使わないような牽引ロープや予備タイヤ、ブースターケーブル(バッテリーにつなぎバッテリー上がりを起こした車のエンジンを起動させたりするもの)などがあるが、これらは災害時でなくとも役に立つ場合があるからできれば備えておきたいところだ。燃料の缶詰というものもあり燃料に不安がある場合には備えておくと良い。消防法等の関係であまり多くを備えるわけにもいかないだろうがないよりは安心だろう。

こういう自動車での備えの究極はキャンピングカーである。十分な食料と衣服等を準備しておけば衣食住の完璧にそろった状態で移動できる。趣味でキャンプカーを持っている場合には少し意識して装備を整えると良いだろう。

自動車はなくとも、小規模になれば自転車でも運搬は可能だ。背負い鞄と合わせて荷台に積載できるようにしておけば背負って運ぶよりは少し多く物資を持ってゆける。心もとなくはあるが無いよりはましであろう。

無い状態から車などを用意して災害に備えるのは少しばかり大仰であるが、持っていて利用ができるならば最大限非常時に活用できるように用意していたほうが良い。いざというときに不完全な状態で挑むはめにならないように大げさと思わずしっかりと整えておきたいところだ。

小規模の物から備えよう

以上、規模で3つの段階に分けて考えてみたが、住んでる地域や外部に頼れるものが居るかどうかで備え方は大きく異なってくる。確実に安全な自宅があれば帰宅第一に考えて最小のものだけで何とかなるし、住居に不安があれば移住できるくらいの備えが必要だったりもする。様々な備え方があるが、規模が小さいものの方が重要で必須であると思う。今回紹介した規模で分ける方法が役に立てば幸いである。

非常時の装備を3段階に分ける 前編
非常時の装備を3段階に分ける 中編
非常時の装備を3段階に分ける 後編

非常時の装備を3段階に分ける 中編

さて、常時持ち歩きができ、非常時でも即応できる装備を一揃えすることにすると、その装備はどうしても最小限にならざるをえない。したがって次の段階としてより大きな備蓄と装備のセットを考えなければならない。

重要であるが常時は持ち歩けないもの、持って移動するとき邪魔にならないもの

非常時では移動性が必要である。非常時、災害時に一番頼りになる移動手段というのは徒歩である。災害時には道路状態の悪化や様々な要因により動力による移動などが制限されがちなので一番確実な移動は徒歩での移動になるのである。したがって第2段階の装備として徒歩で持ち歩ける道具・食料の一式となるのである。

徒歩で持ち歩ける装備を考えるとき、その持ち歩きの手段はリュックサックということになるだろう。非常時には両手が使えるというのは非常に重要になってくる。肩掛け鞄や手持ちの鞄ではとっさのとき投げ捨てるにはよいが、両手を有効に使えないためリュックサックの方がよいだろう。最近では種々の装備の入ったキャリーバックが販売されるが、こういうものも不整地ではタイヤでの移動は難しいので背負うこともできるタイプがよい。

そして、装備の内容であるが、登山用などの食料品、鍋等の調理器具と火を焚く道具が特に重要なものである。背負える分だけとはいえ多少の容積、重量の余裕はあるため、3日分程度の必要カロリーをカバーできる食料とそれを温かく食べられる調理器具を用意することができるだろ。また、小型の浄水器も備えておきたい。持ち運べる小さなタイプのものは極小のもので100リットルほどの水をろ過できるものもあるから長期的な水の確保ができるよう、1つは入れておきたい。同時に、各種衣類も重要である。災害時に脱出するとき衣服や靴などが万全であるとは限らないから、備えておくセットに防寒と肉体の防護ができる程度の衣類は入れておきたい。歩きやすい靴や作業にも使える手袋をしっかり備えておき、不意の怪我がないようにしたい。また野営に備えてビニールシートやエマージェンシーシートなどの防水シート、寝袋などの寝具が可能であれば持っておきたいところだ。

なまじ容積・重量の制限が少ないから色々と選択肢があり迷うが、基本的には衣食住、衣類と靴、食料と水、シェルターと寝具を基本に準備すればまず間違いがない。そして、それから余裕があれば医薬品やその他必要で使いこなせると思われる装備を用意してゆけばよいだろう。

 

これ以上のかさばる装備もあるし、食料も長期的にはもっと必要になるが、それについてはまた次回。

非常時の装備を3段階に分ける 前編
非常時の装備を3段階に分ける 中編
非常時の装備を3段階に分ける 後編

非常時の装備を3段階に分ける 前編

非常時に、持ち出し袋などに水や食料、その他の装備を備えて持ち出す準備をしている方は多いと思う。だが、その装備は非常時に実際に持ち出せるだろうか。

大きな揺れで建物の倒壊が危ぶまれるとき、何よりも避難が重要である。素早く逃げるのに、重たい荷物を背負うのはかなり負担となるし、何より背負ったりする時間はないと思ってよいから、大荷物となる非常持ち出し袋を持ち出している暇はないかもしれない。準備した装備を持ち出すために死んだのでは何にもならない。

一方で、十分な装備を求めると、バッグがはちきれんほどの装備でも足りないことになる。こういうものは緊急で避難する際にはもって出ることはできないが、時間的余裕があるときにはあってほしいものである。

したがって非常時にもって出る装備を3つのレベルに分けて準備するのがいいだろう。食料や水、服や寝袋などなど、様々な装備はあるが、それぞれに重要度に違いがあり、また重さや体積も様々である。これらすべてをみな一様にひとまとめにしておく必要はないのであり、重要そうでないものはいっそ分けて別のところに置いておく思い切りが必要である。

最重要なもの、持ち運びに負担がないものをまとめる

一番持ち出しが優先され、絶対に持ち出す装備は、身近においておきいつでも持っておけるようにしたい。具体的には当座の水と携帯電話である。長期的には水は様々な方法で得ることができるが、例えばエレベーターなどの中に取り残されても水は必要だ。脱水症状の危険はどのようなところでもあるから、常に対処可能にしておきたい。また、携帯電話は外部との連絡を可能とし、救助の要請ができるうえに、その画面の光でライトの代わりにもできるので優秀な道具である。

他に重要度は低いが容積が小さく軽いものを一緒に用意しておくとよいだろう。例えば身分証や金銭、携帯電話の予備バッテリー、コンパクトな裁縫キット、鏡、ハンカチにポケットティッシュ、飴玉などコンパクトで重くなく、それで居て普段の生活にも便利なものを入れておくとよい。これらのものは日常生活で使うだけではなく、災害時にも役に立つことが多い。

私の場合は小さなバッグにこれらの小物を入れ、500mlの水筒とともに持ち歩いている。容量と重量の許す限りに色々と入れているからかなり色々な物品が入っているが、普段の生活のときにもとっさのときに役に立つものが多い。

 

さて、こういった簡易パックに必要となりそうなもの全てを含めることは到底できない。もう少し大きな装備を考える必要があるが、長くなるのでそれはまた次回としよう。

非常時の装備を3段階に分ける 前編
非常時の装備を3段階に分ける 中編
非常時の装備を3段階に分ける 後編