ゼロから小屋を作る

サバイバル時には身を守るシェルターが必要になる。雨風から体を守り、暑さ寒さを和らげることもできるそういった拠点は一番に確保する必要のある場合も多々あるものである。

都合よく洞窟などの使いやすいシェルターが見つかるのならばいいのであるが、そう都合よくいく場合ばかりではないから、あらかじめ簡易のものを準備するかその場で作る必要がある。いままでsuvtechで扱ったそういう製作の手法は、道具であったり材料の一部を用意して、効率的に組み合わせて製作しているものがほとんどだ。そうして大変な部分をあらかじめ用意しておけば早く、労力を少なくすることができる。

さて、では道具がなければもしくは材料がなければ諦めるほうが良いのか?そんなことはない。古典的な、原始的な手法を用いて何もないところからでも立派なものを作ることができる。今回はそんなことを実践している動画を紹介しよう。

石を打ち欠いて石斧を作り、それを使って材木を採り、つる植物から紐を得て、組み合わせて小屋の木組みを作ってしまう。葉を集めて屋根を作り(これは防水性が悪くあとで樹皮に替えられた)、薄い板を作って編み込んで壁にする。壁土を塗りたいが水を運ぶものがないから土器を作り、それで運んだ水と近場の土で壁土を練って壁を塗った。

なんとまぁ、立派な小屋ができるものである。原始的な製作技術の見本市のような工程で、できるものは大きくて実用可能なものである。暖炉とベッドを備えた十分な出来栄えだ。何もないところに放り出されても悲観することはない。人間ひとりで何もなくともこれだけのことができるのである。

とはいえ、道具があればよりやりやすいことには変わりないから道具もしっかり備えよう。この動画を見ていると知識を備え、道具を備え、そして覚悟が備わればもはやどこにいても小屋を作るくらいはできそうな気分になってくるのではないだろうか。

とってもシンプルな木登り補助具 - 足縄で木登り

サバイバルで木登りというのはあり得ることである。木の上から見渡して位置を確認したり、木の実をとるためだったりと、木に登ることで得られる利点というのはあるものである。しかしながら、木登りは大変な重労働である。何も道具を使用しない場合、数十キロの体重を手足の挟み込みの力だけで登らなければならないのである。

とはいえ、木に登るというのはさほど特殊な行動ではなく林業などでは日常的業務であり、ありがたいことに先人たちによって様々な道具や手法が開発されている。安全度の高いものや木を傷めないもの、登る速度が速いものなど様々な性質のものが存在する。

今回はそのうちで最もシンプルな道具で素晴らしい効用をもたらす手法を紹介している動画を見かけたのでこれを紹介しよう。

これは輪になったロープ一本を補助具として木に登る手法だが、本当にシンプルな手法ながらすいすいと登っている。もちろん両腕にある程度体を支える力は必要なのであるが、足縄と手が幹を挟むようにロックしているため、小さな力で安定して姿勢を維持し、また登ることが可能である。

もちろん落下の危険はなくならないが、しかしながら何もなしでは木に登れない人もこういったもので木登りできるようになると行動の選択肢はすさまじく増大する。道具はロープ一本だから、機会があったら怪我をしない低い位置で少し試すのも悪くないはずだ。

[やってはいけないこと] サバイバルでは危険な脳漿なめし

サバイバルにおいては被服については食料より緊急度が低いのであまり触れていなかった革のなめしについて、日本の知識環境では危険な部分があると感じたので今回は少しそのあたりについて解説したいと思う。

インターネットでなめしについて検索する人々に知識の偏りが生じている可能性に気づいたのはとあるweb小説を目にしたのがきっかけだった。その話の中では主人公が狩猟をし、その皮の活用でなめしをしようとしたとき、なめし用の薬が無いので自然物を使ったなめしとして脳漿なめしを検討していた。そこで私は、「はて、自然物でのなめしならまずは樹皮なめしでは?」と思ったのである。

改めてなめしについて検索をしてみると、「なめし 方法」などのワードで上位に脳漿なめしの実践を行っているページが見られた。これは私も以前に見た記憶があり、恐らくなめしについて調べている人の結構な人数が見ている物と思われる。上述の小説ももしかするとそういった背景があってのものかもしれない。このページは極めて実践的で、また詳細な記述が大変有用なものである。脳漿なめしという方法はかなり古くからの方法であり技術伝承の意味、また最終製品の質からも重要な方法であるということにはなんら異論の無いところである。ただし、脳漿なめしはメジャーな方法ではない。メジャーでない技術にはメジャーになれない何らかの原因がある。

そういった原因の多くは経済的なものである。脳漿なめしも脳漿の性質が一定しないとか脳漿を確保するのが面倒、費用がかさむなどの問題がある。そして、脳漿なめしにはもう一つ大きな問題がある。腐敗しやすい脳漿を利用するという根本的問題である。脳漿はつまりぐちゃぐちゃの脳そのものであるが、これは栄養分と水分が十分にあり、容易に微生物の温床となる。脳を栄養とする菌なりバクテリアというのはすなわち生きている生物の脳も食べるということである。そういったものが大量に繁殖する脳漿を扱うのは大変危険である。警鐘をならす方もいる(脳漿鞣しでおこる健康被害 : オグララ工房雑記)が、なめしにかかわらず方法について解説しているときにはあまりそういった危険について話が向くことは少ないように思われる。

現代では抗生物質の発達と医療の整備が進んだこともあって、そうした方法で事故が起きても死亡することは極少なくなったであろうが、サバイバル時や文明崩壊後などでは大変に致命的であり、危険な方法といわざるをえない。広く無機系やタンニン系のなめしが普及したのはその抗菌性と扱いやすさが寄与している部分も大きいだろう。

サバイバルに応用しやすい古代技術などはインターネットで効率的に調べることが可能になったが、検索上位だけをそのまま飲み込むだけでは不十分なこともある。suvtechを御覧の皆さまには、そこからさらに踏み込んで十分な知識を得てもらいたいと願うところである。