遭難時の死因で多く聞かれるのが低体温症である。事故等がなく、外傷による危険がなくとも、対策ないままでは体が冷えることによって体力を消耗し、最後には力尽きてしまうものである。したがってサバイバルではまずもって己の体温を保持するための方法を学ぶのであるが、例えばサバイバルシートやテント・ツェルトの使い方を学んだだけでは不十分であることがある。風をさえぎり、防寒効果のあるシートをまとっても体温が失われやすい状況というのがあるからである。
さて、髪がぬれていると風邪をひきやすいとか聞いたことはないだろうか。髪がぬれている状態であると、その蒸発によって頭が冷えるが、その分の熱を補填するために体力を消耗するので風邪をひくということである。頭部からの発熱は存外大きいものであり、また髪は水を多く含むことが出来るので体力を消耗するに足る吸熱が起こるのである。
そう、水は吸熱が大きいのである。例えば短時間での場合4℃の空気(冷蔵庫の中など)ではさほど冷たいと感じないが、4℃の水だと身を刺すほどの感覚となる。これは水が大量の熱を素早く奪うからである。同じ重さの空気と水の比較だと、それぞれが1℃上昇するのに必要な熱の量は空気より水の方が4倍ほど多い。また体積で言うなら3000倍も違うのである。また、これは温度が上がるだけの場合で、水は蒸発するときに多くの熱を奪う。水の蒸発するときの熱は、計算すると1kgで500kcalを超える。1kg、つまりおよそ1リットルの水を頭からかけてみたが、だいたい頭とTシャツがぐっしょり濡れる程度である。雨に降られてしまうとこれくらい濡れることはあるが、そのままだとかなりの体力を消耗することが分かる。
したがって、体温を保持するための原則としてはまず濡れないということを大事にしなければならない。雨に濡れないための雨具を用意する(アルミブランケットなどで代用も可能である)ことはもちろん、厚着をして登山して汗をかき、その後に気温が低下して低体温を引き起こした例もあるので、適切な衣類の状態を保つことも重要である。そして、体が濡れたなら乾いた布などでぬぐうこと、そして濡れた衣服は脱ぐことが肝心である。気温が低くとも濡れた衣服を着続ける方がよっぽど危険なのである。
最近では便利なもので、圧縮されたタオルなんかもあるし、衣類圧縮袋などもある。こういった袋に入っていると濡れることはないので、体や衣服が濡れたときのかえとして有効に働く。備えておきたいものである。
[補足]水の蒸発に関する計算
水の蒸発熱は40.8 kJ/mol
また 1cal≒4.2J 水の重さ18g/molよって、40.8/4.2/18≒540cal/g=540kcal/kg
(ただし、低温の水の温度上昇分の熱量は入っていない。実際にはこれ以上の熱が奪われるだろう)