恐ろしい虫、と聞いて思い浮かべるものは何だろうか。毒蜘蛛、蜂、ムカデなどを思い浮かべるのが普通の人だろう。ちょっと旅なれている人だと蚊が怖いなどという人もいるかもしれない。蚊はマラリアを媒介するので恐ろしい、というわけである。それでは昔から山仕事、野良仕事をする人に聴いてみるとどうだろうか。恐らく(私の住む西日本においては)マダニが危ないというだろう。ダニは吸血動物であるから防衛のために攻撃する蜘蛛や蜂と違って積極的に危害を加えに来る。寒い時期はさほど問題にもならない生物であるが、だんだんと温かくなってくる今から警鐘を鳴らしておこうと思う。
マダニはダニであるが、家ダニと違ってマダニは動物を渡り歩いて成長する。草に隠れて小動物に付き、少し大きくなったら狐・狸などの中型の動物、その後イノシシ等の大型の動物に寄生した後に地面に落ちて落ち葉などの裏で産卵・越冬などする。
マダニの恐ろしいところは、病気の感染源であるというところである。マダニそのものは毒を持っていない。マダニは野生動物だけでなく、人間にも寄生するが、極少量の血を吸うだけでそれそのものには危険はないのである。それがゆえによくよく気をつけないとマダニに寄生されていることに気づくまでに時間がかかるのである。その間にマダニによる感染のリスクは大きく高まってしまう。感染というのは、もちろん血を吸うために皮膚を害されているため、そこから不衛生な環境であれば様々な感染リスクが生ずる。が、より恐ろしいのはマダニの持っている可能性のある病原体である。
マダニは種類や個体によりいくつかの病原体を持っている。病原体といっているのは菌とウイルスどちらもあるからである。ウイルス原因の病気としては重症熱性血小板減少症候群で嘔吐・下痢・頭痛などを起こす。細菌だとライム病とリケッチア症があり、ライム病は咬み傷あたりに発赤を生じ、全身の倦怠感・寒気・頭痛・嘔吐・発熱・関節痛などのひどい風邪のような症状を起こす。リケッチア症は種類によって症状が異なるが、日本のマダニが持つものは風疹のような症状であるようだ。どの症状も風邪の症状と間違えやすいため、マダニに咬まれたことがはっきり分からないと適切な対処が取りづらい。
日常において、マダニに咬まれるような場所、つまりヤブや森に入った後に上のような症状になった場合は病院にマダニに咬まれた可能性があることを伝えて診てもらうとよいだろう。もちろん、マダニに咬まれていることを確認した場合もすぐに医療機関に行こう。ウイルスでは対処療法しかできないが、細菌であれば適する薬が存在するので早めの受診で悪化することを防ぐことができる。
もちろんすぐに受診できる場合ばかりではない。サバイバル時、医療機関にはすぐにいけないし、大規模災害時では医薬品の不足の問題もある。そういった状態でのマダニへの対処はまた次回ということにしよう。