冬、どうしようもなく寒い、例えば-10℃の雪原の中で遭難した場合にどのような方法で身を守り、休息したらよいだろうか。これは、大仰な、仮定の話だけのことでなく、日本国内でも、例えば北海道などでは起こりうることである。天候の回復まで待てれば、あるいは生存できたかもしれないという痛ましい事故も起きているから極寒の地でのシェルターについて考えることは有益なことであろう。
雪山でのビバークや、降雪地帯での住居の構造など、参考になるものはたくさんあるが、今回ここでは苛酷な極寒の地で暮らすエスキモーの知恵に学んでみたいと思う。
エスキモーはアメリカ大陸北部の氷雪地帯に住む民族の総称で、長らく氷に閉ざされる地域で生活しており、その手法は極寒の地で使用するのに適したものといって間違いない。その中に、住居、イグルーに関するものもある。
イグルーという言葉それ自体は彼らの言葉で「家」を意味するだけであるが、他の言語で言われるときには雪でできたドーム状の一時的な家のことを指す。このイグルーは雪を積み重ねて作られており、言ってみれば大規模なかまくらのようなものである。
ただ、かまくらと違うのは、イグルーは雪のブロックを積み上げて作るということである。雪をブロックとして利用することで、積もった雪を掘り、積み重ねてから中をくり抜くよりも早く作ることが可能なのである。ある程度雪が積もると、下のほうの雪はいわゆる「締まった」つまり硬くなった状態になる。この締まった雪、もしくは踏み固めた雪の塊を切り出してレンガ積みのように積むことでドーム状のシェルターを作成するのである。切り出すのには多少道具があるとやりやすい。スコップやつるはし、またノコギリがあると作業がはかどるだろう。専用のスノーソーなどが売られているが、多少使い難いことを覚悟すれば普通のノコギリでもある程度使えるだろう。
切り出した雪のブロックは、雪同士がくっつく性質を利用しつつくみ上げていく。場合によっては柔らかい雪を接着剤のように使いながらブロックを乗せていくことになるだろう。ドーム状にするには一人であれば相当に慎重に積む必要がある。2人以上で作業できれば一人が中で支えるなどしながら作業すればスムーズにドームを作成できる。
ドームの入り口はドーム内の床面となる部分よりも低い位置に掘り下げて作ることで寒気の侵入を減らすことができる。降り積もった雪の上であれば掘り下げるのもさほどの苦にならないから寒さをしのぐためにきっちり行いたいところ。
これだけでもイグルーの中は外気から守られてずいぶんとましになるが、雪で作っている性質上、人が入って体温で温まろうが、あるいは火を焚こうが、0℃以上にはならない。どうしても雪が融ける0℃以上にすることはできないのである。では本式のイグルーではどうしているかというと内部にアザラシの毛皮を張るのである。サバイバルで利用する場合では、アルミブランケットや、もしくはしっかりとした装備があるならテントやタープ、防水シートなどで覆うことで内部の温度を高めることができるだろう。
雪と氷の中で生活する者達の使うイグルーは、単純な素材、シンプルな構造であるがそれゆえに頑強であり習熟すれば作成も早いそうである。残念ながらというべきか、幸いというべきか、私の住む地域は雪が降ることも稀な土地であるが、人生何があるかわからない。突然北国に行くこともあるかもしれないから、温暖な地域の方々も雪のブロックのシェルターがあるということぐらいは覚えていても損はないだろう。
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