非常用の装備を集めるときに、針と糸をそれに含める人は結構いる。もちろんそれは衣服の修繕のためだ。ボタンが取れたりしたときに付け直せれば便利である。だが、非常用の装備として針と糸を用意しておく意義はそれだけではない。
衣服の修繕の話で言えば、ボタン付けだけにとどまらず、かぎ裂きや穴の繕いは大変に重要である。服はつまるところ肉体の防具である。外気や草木、虫などから身を守るための防御装備である衣服に穴が開いていては十分な機能を果たさない。体温だけで見るなら小さな穴1つではどうということはないが、其処から虫が入り込めば重大な疾病の原因にもなりうる。植物でも棘がそういったところから不意に刺さるなどすれば、中には激痛を伴う毒をもったものもあるから注意が必要になる。
また、衣服の修繕以外にも針と糸は活用できる。布をいくらか使って下着やシャツやその他、布でできたものならば針と糸があれば作ることができる。布もさらしのような汎用的なものを一枚用意すれば様々なものを作れる。
他にも針や糸そのものを加工する方法もある。針をまげて叩くなどして硬くし釣り針にし、縫い糸を数本より合わせてタコ糸くらいにすれば簡易的な釣り道具を製作できるし、針は火であぶって消毒すればとげなどが刺さったときに皮膚の中から棘を掘り出す道具にもなる。糸も一本では弱いがより合わせる等で適度に強くすれば色々と使用可能である。
もちろん、裁縫用の針と糸は布を縫い合わせるのが本業であるから、そのように使うのが一番効率が良い。衣服の修繕や改造、製作などに使うのが良いのは当然のことであるし、災害時にもそういった需要は多くある。手芸の腕を磨くことは、そのまま非常時に使える技術を増やすことにつながるのである。しかし、せっかくの汎用性の見込める糸や針があるのだから他に何か使えることがあるかと考えてみるのも良いだろう。