簡単でより痛みの少ない湿潤療法

今回は怪我の治療について紹介したい。怪我と一言にいっても様々な種類があり、その対処の仕方を間違えると肉体に重大な損傷を引き起こし、命の危険も生じうるため、実践の際は自己責任において行っていただきたい

さて、サバイバル時、身体にいかなる傷も受けないでいられるということは考えにくい。災害などでは初期のうちに、また移動時などに受傷することも多く考えられる。その中でも一定以上の重症においては状況では処置する方法もないかもしれないが、ある程度なら応急処置を施され、その手法は救急救命などの講習で習うこともできる。一方で、擦り傷切り傷火傷等々、細かい傷は日常でも受傷することもあって、軽く扱われがちである。

しかし、擦り傷や火傷などが軽症であっても痛みは当然生じる。また確実に皮膚はダメージを受けており、その防御機能は低下するのである。サバイバル状況下で皮膚のダメージは危険である。各種感染症は傷口から入り、自然に存在する雑菌により敗血症などの重篤な症状に発展する場合もある。また最近の日本ではあまり聞かれなくなったが、条件によっては破傷風といった治療の難しい病気に感染する場合もあるのである。したがって皮膚の損傷は傷が浅い場合でも速やかに衛生的に治療されるべきである。
傷の手当、というと従来は消毒し乾燥という手順が主であった。泥汚れなどを洗い流し、その後消毒薬を塗り、乾燥させるというものである。いかにも細菌を退けて治るような感じであるが、現在最新の治療法はかなり異なるものになっている。その名も湿潤療法である。
湿潤療法は、その名の通りに傷を乾かさないことを大きな特徴とする。体の修復というのはつまり体細胞の培養に近しいもので本来湿潤状態で行われるものであり、傷に染み出る体液を保持することで傷の治りをサポートするという考えの治療法である。この方法の肝は、消毒をせず傷口の洗浄だけを注意して行い、傷を乾かさないというところである。
傷の手当の一番基本である傷口をきれいに洗うというところは今も昔も変わらないし、湿潤療法でも同じくそうであり、むしろ消毒薬を使わない分、より丁寧に行う必要があるといってもいい。しかし、その後の手当てはまったく異なる。今までであればガーゼと包帯を用いるところを、水を通さないフィルムをワセリンなどで貼り付けて、必要があればその上からずれないよう包帯を巻く程度である。これで、手当ては終わりである。最新という割りにかなりあっさりしたものだが、驚くほど効き目がある。
フィルムは専用のものがあり、またフィルムだけでなく専用の粘着するパットもあるが、実のところ不透水で清潔なら何でも良い。古代の事例を紐解けば、蜂蜜をつけた布の例もあったように思う。何を使おうとも、清潔で湿潤に保たれれば効果はある。昔から言われる傷につばをつけておけば治るというのは、湿潤に保つというこの原則を考えると実は正しいことをいっていたということになるかもしれない。
筆者の体験であるが、膝の擦り傷に対して洗浄した後にコンビニ袋を洗って使ったことがあるが、10分もしないうちに痛みは消え、数時間後には薄皮が張っていた。また、浅い切り傷にはワセリンだけでも効果があった。火傷にも効く。火傷を負った際にはキッチン用のラップを巻いたが、不快な痛みはほとんどすぐに消えて、巻いている間に痛みを感じることはなかった。ともかくも身近なもので簡単に行える、効果の高い方法である。
さて、湿潤療法のいいところを述べてきたが、しかしこの方法も万能ではない。この方法は空気に触れさせない方法であるから、空気を嫌う嫌気性の細菌を繁殖させてしまう可能性がある。また広い面積だと機能障害を起こす可能性もあるそうだ。すなわち、ひどく汚れてすでに感染が濃厚な傷、汚れの除去が困難な傷、深い傷、動物の咬み傷、広い傷(数平方センチ以上)などは湿潤療法の効果で悪化する可能性があり危険である。また、しびれが見られる、運動障害が見られる場合は神経や腱に障害が、出血が多量で直接圧迫での止血が見込めない場合は血管等に重大な損傷があると思われるので湿潤療法の及ぶところではない。日常ではかすり傷よりひどい怪我であれば医療機関での治療を受けるのが一番であろう。
ただし、そうは言ってもサバイバルには強力な味方である。汚れを除去でき、深い傷でなく、動物の咬み傷でない場合(つまり傷を覆うことで悪化する状態でない場合)では、ラップでぐるぐる巻きにするなどしてひとまず皮膚の代わりにでもして行動しなければならない。ひとまずの手当てとしてこれほどいいものはない。軽症には本当に便利なので基本は頭に入れておいていただきたい。

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