非常時に一定の場所で過ごす場合に気になるのがその拠点の防御力である。治安の悪化しているとき、また物資に不安の多いときには様々な悪人・悪事が横行するものだからである。自らの生命、そしてせっかく準備した物資をやすやすと悪人にくれてやるわけにはいかないが、警察などの機構が機能不全に陥っているときにどのように守りを固めればよいだろうか。
多くの場合に想定されるのは地震などの災害であるが、そういったときには塀や家の壁などは崩れている場合もある。その修復をせねばならないと思うのが人の心というものだが、壁が崩れていても無事であっても積極的に略奪しに訪れる者への防御力には不安が残る。攻撃的な相手には消極的な防御では少しばかり足りないのである。そこで少しばかり攻撃的な防御として有刺鉄線というものの価値が見出されるわけである。
有刺鉄線は文字通り棘(刺・とげ)のある鉄線である。もともとは牧場で家畜の脱走、また野生動物の侵入を防ぐものであったが、大型の動物に効果のある有刺鉄線は、人間にもまた効果的に働いたため、侵入防止用の設備資材として利用されてきた。有刺鉄線は現代の戦場で多用されるほど防御効果が高い。しっかりと設置できれば訓練を受けた兵士でも専用の装備がなければ手間取るくらいに効果が見込めるものである。空港や発電所・変電所など余人が入り込んでは困る場所に設置されるのもこの有刺鉄線である。
有刺鉄線は木の杭やその他ポールとなるものに固定して、横方向に数条張ることで領域を区切ることが出来る。ポールは三角形状に立ててその両面に有刺鉄線を仕掛けることでさらに安定して防御できるだろう。三角形状に交差して棒を立てるだけで支柱の安定性は増すが、それを有刺鉄線がそれぞれの支柱をつなぎ合わせるようになり、さらにこれを破壊するを難しくさせるのである。いっぽうで、有刺鉄線も能動的な防衛ではないのでじっくりと時間をかければ撤去できるものである。有刺鉄線はその足止め効果が評価されて軍事拠点に多用されているものであるから、さらに攻撃手段を用意しておくとより防御に不安はないだろう。
しかしそれでも、一般住宅地であれば十分な防衛効果が見込めるものである。有刺鉄線はその物々しい見かけからもこちらが「本気の防御」をしていることが分かるものである。そんじょそこらの悪人であれば襲えば自分に被害を受けそうな場所には襲撃したくないものである。仮設の有刺鉄線を設置して防御するところまで気軽に襲うことは考え難いだろう。逆に、物資が極限的に不足した場合にはそういった防御のしっかりしたところに物資が有ると思われると逆に襲撃の対象になる可能性もあるので場合によっては目立たないように設置するなどの対処は必要になるだろうが、防御なくしてはその状況になるまで守りきることもできないかもしれない。
さて、散々防御力を強調してきた有刺鉄線だが、平時からの設置はお勧めできない。災害時などでは初期の脱出や救出のための出入りが困難になる場合があるのが最も大きい理由である。また設置している構造物が地震などで倒れたときには復旧がとても大変であるのが有刺鉄線である。ある程度倒されても衣服に絡みつくなどで移動を阻害し、また足に怪我を負わせる可能性もあるから撤去と再設置に著しく手間がかかるのである。また、普段から威圧的な設備を設置していると付近住民からの心象が悪くなる。自宅が倒壊した際などに救出してくれる可能性のある近隣の人々は見込み友軍と思ったほうがよく、よっぽどのことがない限り周辺住民には温厚であると思われていたほうが有事の際には有利に働くものである。
したがって、有刺鉄線は資材として持っておき、有事の際に展開するという使い方がよいだろう。周囲の状況は一定ではないので状況に応じて設置場所や利用方法が選べるというのは一種のアドバンテージになる。設置方法の予習をしておき、いざというときに素早く利用できるように勤めたい。また通常の使用法のほかに、土嚢と有刺鉄線で家を作るなどの面白い利用法もあり、資材として持っておくのは転用がしやすいという意味でも有利である。あまり価格が高いものでもないので扱う自信がないというわけでなければある程度持っておけば無駄にはならないかと思う。
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