災害時、電気水道ガス等の一般的な生活インフラのことごとくが使用不能となる。ガス等の熱源は薪炭で、水道は汲み置きや井戸などで代替可能であるが、電気は貯蔵も難しく高価になってしまう。電力確保の方法はいろいろな種類があるが、必要とする機器の電力に合わせた選択をしなくてはならない。「必要とする機器」としたのは、電力会社からの電力供給が停止した際には利用可能な電力はかなり制限されるからである。
大きな電力の得られる蓄電や発電はかなり高度な技術が必要で、機器が高価になるがゆえに家庭用の蓄電池、発電機は普及率が悪く経済的に負担が大きい。また家庭用とされる蓄電・発電機器も能力がさほど大きくない場合がよくあるが、電気機器の規格や法律などの関係(大規模な電力危機は大きな事故を引き起こす可能性があるため規制が多い)から大容量化はあまり芳しくない。そういった関係で一戸家庭で得られる電力は多くないと見たほうが良い。
したがって、非常時には電力の使用をかなり絞る必要がある。ポジティブに言うと利用する機器を本当に必要な範囲に限定して選定することができれば、小さな発電・蓄電量でも非常時において十分に電気機器を活用することが出来る、ということでもある。
さて必要最低限の電力とすると、どれくらいのものが必要だろうか。いくつかのシーンで考える必要があるだろう。徒歩移動時と車での避難時、自宅が無事なときの3つで考えてみる。
徒歩移動時はかなり利用可能機器も重量から制限されるが、ひとまず明かりと通信・情報受信、つまりライトと携帯電話、ラジオが駆動する程度の電力が確保されれば良いだろう。それも3つを常時利用できなくともよい。最低でも夜間にライトが利用できる程度の電力が確保できればよいし、ラジオで断続的に情報を得て、携帯電話で外部への連絡の可能性を確保できるならば上等である。この程度であれば手回し発電機程度の発電量でも賄うことが可能である。ただし手回しはかなりの手間であるので小型の太陽光発電機が併用できればなお良いだろう。
次に車での移動であるが、これは車のバッテリーと発電機からの電力が利用できるため少しだけ多く電力が利用できる。ただ、バッテリーは車の稼動に必要不可欠であり、他の用途に流用しすぎて車が動かなくなるのはかなり危険であるので上記徒歩移動時の利用と同様な内容で、その補助に車を利用するくらいの範囲にとどめるのが無難だろう。別個に発電機等を搭載することもできるから、例えば人工呼吸器などで電力がどうしても必要となる場合には検討したほうがよいだろう。
自宅が無事な場合はかなり大掛かりな発電機も利用できるので個々の生活と発電設備に応じた機器を利用できる。一番身近なところで冷蔵庫、扇風機、照明といったところだろうか。一番設備の負担がないのは照明である。冷蔵庫や扇風機などのモーターを利用する機器は始動時の電力が大きいので、貧弱な機器では利用できないが、最近の発電設備だと利用可能な場合が多い。他にもノートパソコンや各種充電式の電子機器、充電池の充電器、揚水ポンプ(井戸ポンプなど、モーターで電力を使うのでよく仕様を確認する必要はある)等がある。
一方で利用できない・利用しない方がよい機器は、トースターやアイロン、電気ポット等の電熱線器具、またIHコンロやIH炊飯ジャーなどのIH機器、電子レンジは大量の電力を消費するので適するものではない。蓄電池の電力を徒に消耗し、また発電能力を超えた利用になりがちなものである。大電力の発電設備が確保できるなら利用できないこともないが、非常時にはこれらの消費の激しい機器であまり必要でないか代替の利くものについては利用をあきらめてより経済的でコンパクトな利用形態にすることも考えなくてはならない。
絶対に必要な電気機器はないといってもいいのだが、それではあまりに不便すぎるから、利用度と重要度が高いものについては確保できるように心がけると万が一のときには役に立つだろう。普段便利さに慣れきってしまっているけれども、それがなくなったときどれくらい我慢できるか普段から意識してみてもらいたい。そうしてそれぞれの重要度について考えておけば、限りある電力の中でうまく電気機器を利用できるはずである。